情報商材屋で働いた話(5) 通帳
情報商材販売会社に入社して2日目。
先輩スタッフのアキラさんから、OJTを受けることになった。
アキラさんは1か月後に退職予定なので、すべてを教えてくれた。
社内社外とも連絡はすべてチャットで行うため、紙は一切なしのペーパーレス。
業務マニュアルもない。
というわけで、すべて口頭伝承。アイヌ民族か???
しかも、システムは必要になるたびに付け足していたそうで、非効率きわまりない。
チャットにしても5個も6個もあって、「24時間、常にすべてを見ておけ」というのだから、たまったもんじゃない。
100年前の奴隷だって日曜日は休みだったぞ。
あと2名雇う予定もあるんだから、これは俺が変えていくしかないな。
そこへ、ヤンキージャージにサンダルをはいたおさるのジロウ、もとい、社長様がやってきた。
「億男さん、悪いんだけど、銀行に行ってこれ記帳してきてくれる?ついでに、たまごサンドとコーヒー牛乳も頼むわ」
「はい、いいですよ」
俺は通帳の束を受け取った。それぞれ別の金融機関。支店も名義も違う。
架空口座ではない。社長の本名と、会社の法人名義。
社長の故郷の町の支店と会社のある街の支店。
昨日のアキラさんの話を思い出し、俺はちょっと切ない気持ちになった。
おさるのジロウのやつ、何やってもダメで苦労していたって言ってたな。
歩いていきながら、パラパラとめくってみる。
エッ????????????
残高40,000,000
8ケタ?
よんせんまんえん?
切ない気持ちは一瞬にして吹き飛んだ。
情報商材販売って、本当に儲かるんだ!!!!!!!!!!!!!!
月収100万円でさえ、ハッタリだとばかり思っていた。
銀行で記帳すると、paypalからの送金1,000,000が何件も何件も入っていた。
これはあとで知ったことだが、情報商材はpaypalで決済することが多い。
そしてpaypalからの送金を最低限に抑えるには100万円ずつ送金してもらうのがよい。
ヒャッホーーーーーーーーーーーー
俺はとんでもない鉱脈にたどり着いたのかもしれない。
社長はすべての商材を見ていいと言っていたし、アキラさんはすべてのノウハウを引き継いでくれている。
それもタダで。いや、タダどころか、俺は破格の給料を約束されていた。
学歴のないヤンキージャージ社長にとって、有名私立大卒の俺は雲の上の存在だと言っていた。
外資系にいるときは俺が一番低学歴だった。みんなMBAや修士号を持っていたからだ。
そう、キャリアアップや収入アップのコツは、母体のレベルを下げることだ。
中小企業の給料は場合によっては大手よりイイ。
そして、すぐに出世できる。30代で経営人にまわれることも少なくない。
とにかく、俺は、この情報商材会社ですべてを吸収してやる!
そう思うと、たまごサンドとコーヒー牛乳を買うおつかいくらいかまうもんか。
俺は片手に通帳の束、片手にコンビニの袋をぶら下げ、スキップしながら会社への道をいそいだ。
つづく。