情報商材屋で働いた話(6) 面接
入社2日目の午後、俺は新人採用の面接をしていた。
俺自身、まだ情報商材のことも、会社のことも、ほぼ何もわかっていない状態だ。
わかっているのは、情報商材販売は間違いなく儲かる、ということ。
情報商材販売はバカでも出来る、ということ。
ヤンキージャージ社長は、どこの馬の骨ともわからない俺に、会社のカギ、財布やクレジットカード、通帳を渡すくらいバカだ。
もっとバカなのは、販売システム、顧客名簿も全部渡してきたことだ。
そして、入社2日目の人間に採用面接をさせるくらいバカだ。
そんなバカでも4000万円以上稼いでいる。
俺が通帳に記入して確かめた事実だ。
採用には20名以上が応募してきた。
すばらしい経歴の持ち主も何人かいて、ああ、時代も変わったな、と思った。
俺が設けた採用の基準はただ一つ。
「あのバカ社長とやっていけるか?」だ。
年齢や能力は一切問わない。
そのかわり、あのバカにYESと言えるアホか、お人好しでなくてはならない。
社長はジロウという名前だから次男なのだろう。
社なじみのアキラさんの話からすると、親にほっておかれ、学校や社会でもつまはじきにされてきたようだ。
だから成功した今、必要以上に威張って権力を誇示したがる。
精神的に幼いので、甘やかしてほしがる。
めんどくせぇ。
若くて体育会系の営業職経験者を1人採用することにした。
すなおだし、理不尽な上下関係を飲み込んできている。
そんな判断をした自分に嫌気がさした。
俺は俺が大嫌いだったジジイどもと同じことをしているじゃないか。
俺は新卒でも役員につっかかっていく若者だった。
でも、それで本社から支店に飛ばされた。
その後いくつかの職を経て、まわりを見回して、覚えた出世術が「とりあえずYESということ」だ。
今も昔も、俺の一番キライなことは自分を曲げて他人に合わせること。
それを抑えたら、あっという間に年収1000万円以上もらえるようになった。
給料はガマン料なのか、と悟った。
会社員は自分の時間を切り売りしているんだから、なるべく高く買ってもらった方がいい。
会社で出世するには割り切りも必要だ。
会社では出世したほうが自由度が高くなる。
長いものに巻かれるのがイヤなら自分で起業するしかない。
自分で起業した場合、好きにやれるが、収入の安定はない。
創業してから5年後には9割以上の会社がつぶれる。
最後の面接が終わったのが夜8時。
ヤンキージャージ社長に声を掛けられた。
「億男さん、今から予定ある?」
つづく