情報商材屋で働いた話(7) 彼女
ようやく最後の採用面接を終えた夜8時。
俺はヤンキージャージ社長ジロウから誘われた。
「億男さんは酒は強いの?」
オイオイ、やめてくれよ。
俺は飲みにケーションなんてごめんだぜ。
おし黙る俺に社長がたたみかける。
「俺は全然飲めないんだよねー。だから晩メシ食いに行こう。俺の彼女も来るから」
はぁ?彼女?
お前、公私混同もはなはだしいだろう?
でも、怖いもの見たさで見てみたいような気もする。
「じゃあ、すこしだけお邪魔します」
俺の行動指針はいつだって好奇心のおもむくまま、だ。
待ち合わせの場所につくと、貧相な女が立っていた。
美人でもないし、若くもない。
そういう問題以前に、負のオーラがただよう女だった。
しかし、社長ときたらとろけるばかりの笑顔でデレデレしている。
「こちら俺の彼女のアリちゃん」
アリちゃん?
アリクイの方が可愛いし、アリンコの方がスタイルいいぞ?
アリサっていう顔じゃないし、源氏名か?
「はじめまして。億男です。」
「あ、どうも。。。」
ゴキゲンなジロウは聞いてもいない二人の恋バナをペラペラとしゃべりだした。
アリサはバツイチだが、ジロウにとっては生まれて初めて出来た彼女だそうだ。
それを聞いて、俺は不覚にも目頭が熱くなった。
ジロウ、お前、本当に苦労したんだな。
昨日、ジロウの幼なじみでもあるアキラさんから聞いた話がよみがえった。
家族からも愛情をもらえず、学校や社会からもつまはじきにされてきたジロウ。
何をやってもうまくいかず、30過ぎてようやく、情報商材で金を稼いだんだよな。
そしたら、人生初の彼女ができた。
そりゃあ、彼女ができたことを誰かに自慢したくもなるよな。
よかったな、ジロウ。。。
だが、俺にはアリサという女がどうもニオウ。
この女、クサイぞ。
社長はアリサにデレデレだが、アリサがジロウに好感を持ってる感じがみじんもない。
明らかに金目当てダロウ。
無邪気で可哀相なジロウ。
この世は弱肉強食だ。
話を聞けば聞くほど、ジロウはアリサにカモにされているとしか思えない。
「アリちゃんはね、セラピストなんだよね」
酒も飲んでいないのに、真っ赤な顔のジロウはうれしそうに話す。
「今、俺のマンションで一緒に暮らしてて、毎日、家でカウンセリングしてもらってる。悪いから、1回3万円ずつ払ってる」
それ、同棲相手じゃなくて、完全な客じゃねーか。
「家もオフィスも全部、アリちゃんにコーディネートしてもらったんだ」
今朝見た、50万円の請求書。この女への支払いだったのか。
趣味の悪い安っぽいデスクとライトで50万円とはボロイな。
「あ、そうだ。俺とアリちゃんは来月、1ヶ月間ハワイに行くから、その間、億男さん頼むね。メッセで指示は出すから」
はああああああ?
1ヶ月ハワイだと?
新入社員3名だけでどうしろっていうんだよ?
お前がカモられても知ったこっちゃないが、会社つぶれるぞ?
会社がつぶれたら、お前はその女にとって用なしだぞ?
社長はバカだと思っていたし、会社も長くは続かないと予想してはいたが、
ここまでヒドイとは思わなかった。
しかし、このあとさらに予想外のことが起きるのだった。
つづく。