情報商材屋で働いた話(10) セミナー
話を元に戻そう。
海外セミナーの手配を命じられた俺は、ヤンキージャージ社長から指示された海外の現地コーディネーターのFacebookをみて声をあげた。
「あっ。。。」
「億男さんも知ってる?そうなんだよ。〇〇〇〇先生のつながり」
金持ちは成金だろうとそうでなかろうとつながっていることが多い。
俺も知っているその人物は、情報商材界とは関係ない、実業界の有名人だった。
複数の企業を経営し、従業員は数千人。ホテルやゴルフ場も経営している。
現地コーディネーターはその有名起業家とかなり親しいそうだ。
現地コーディネーターはそこまでではないが、自分のビジネスで成功し、南の島に移住している。
コーディネーターは商売ではなく、人助けでカネをとらずにやっているそうだ。
チャットで話したが、非常に気さくでいい人だった。
そう。金持ちにはいい人が多い。というか、いい人でなければ金持ちにはなれない。
人徳の備わっていない人間は、一瞬、大金を稼ぐことはあっても、結局、破産して誰からも見向きもされなくなるのがオチだ。
情報商材屋にしても、アフィリエイターにしても、稼いでいる人間は上位10%のみ。
人をダマす商売は長くは続かない。
ヤンキージャージ社長ジロウの商売も、虚業ではなく実業だった。
とにかく、人と会う。
社会から見捨てられていた30過ぎの男が情報商材でカネを稼いで東京で会社を作った。
そのストーリーにシビれる層が一定数いるのだ。
ジロウはそういうやつらと会い、喝を入れる。
イノキのビンタ=闘魂注入みたいなものだ。
殴りはしないが、キビシイ言葉で叱咤激励する。
客はそれを喜ぶ。
そういう商売だ。
ジロウが売っている商材は、中身も値段もそうたいしたことないものだ。
しかし、セミナーは50万円する。
それでも、ダメ人間の沼から這い出したジロウに直接会って、「ガンバレ。お前もできる」と背中を叩いてもらいたい人間がいるのだ。
さみしい世の中だな。
家族や友達や恋人との関係が希薄なんだろうか。
近所や商店街のおじちゃん、おばちゃんで気にかけてくれる人もいないんだろうか。
アジアやアフリカでバスに乗ってると、見知らぬ人と話がはずんで、食事をごちそうになったり、そのまま家に泊めてもらったりすることが多い。
ヨーロッパや中南米の田舎でもそうだ。
見知らぬ他人とでもあいさつを交わし、何時間も飽きずに話す。
家族や友人がいなくても、町の人が気にかけてくれる。
そういう人と人との関わりが、先進国や大都市から消えていったのは、皆がカネを追いかけ、効率主義になったからだろうか。
この情報商材業界に群がるやつも99%カネを追いかけてここにたどり着いている。
みんなバカだな。
お前らが欲しいのはカネなんかじゃない、感情だろ?
確かに快適さや愉快さはカネで買える。
でも、お前らが欲しがっている、やさしさやあたたかさ、認められる喜びは、50万円なんて出さなくてもタダでカンタンに手に入るものばかりだぞ?
入社3日目。
俺はこの業界で目指すべき方向が見えた気がした。