情報商材屋で働いた話(11) 人脈
ネットビジネス業界はせまい。
この会社の社長の師匠は〇〇〇〇先生という大御所だ。
一般人の俺としては、聞いたこともない名前だし、写真を見てもチンケなオヤジにしか見えなかった。
この業界には、知性や品性を感じる人物はいないが、やつらは見た目ほど馬鹿ではないことが分かった。
ネットにおける情報商材やセミナー販売の手法はもともとアメリカで流行ったものを日本に持ってきただけだ。
本当にパソコン1台あればできるので、成功者を名乗る多くのものはノマドと称して海外に移住している。
一度、仕組みを作ってしまえば、くりかえし使えるので場所は選ばない。
ある程度、名が売れたり、年数がたてば、集客などしなくても灯に集まる蛾のように客は向こうからドンドンやってきた。
処理が追い付かない場合は、一次募集停止をすることもある。
入社3日目からは、個人客の対面の仕事も手伝うようになった。
自分で言うのもなんだが、俺は人当たりがいい。
外資系が長いからだ。
まず笑顔、まず握手。
マナーも大事だ。
島国で単一民族国家の日本と違い、陸続きの多民族国家では会った瞬間に「俺はお前の敵ではないよ」ということを示さなくてはならないからだ。
あ、うん、の呼吸もない。
だから俺はよくしゃべる。
無口な男はカッコイイとは思うが、海外ではよくしゃべる男も人気だ。
社長のジロウは客に対してもエラそうだし、言いたい放題だ。
強いリーダーに憧れたり、俺様が好きだったりする連中は多い。
旧約聖書にもモーセが1人シナイ山にいる間にふもとの民が金の子牛の像を作って拝んでいた話がある。
弱い人間は何かにすがりたがるものだ。
俺は社長とは逆で弱い人間に甘い。
話を聞き、慰めの言葉をかける。
俺は情報商材界で最も大切なもの、顧客という人脈を得るチャンスも得たのだ。
しかし、のちにこれが災いのタネとなる。