情報商材屋で働いた話(12) 脱税
入社4日目。
この会社の一通りのことは分かった。
業務内容、財政状況、システム、人事、採用、取引先、顧客から、社長の家族関係やコンプレックスまで。
非常にシンプル、かつ脆弱だ。
ペーパーレスですべてクラウドで共有されているため、俺が見ていないデータはない。
気になることがあった。
納税額がオカシイ。
5000万円売り上げているのに納税額がたったの100万円?
サラリーマンだってもっと納めているぞ?
法人化する前のジロウの個人所得税額だったとしてもオカシイ。
2013年の税制改革後、4000万円以上の個人所得の税率は45%だ。
脱税、だな。
情報商材販売にも、セミナー業にも、違法性はまったくない。
しかし、脱税はまぎれもない違法行為だ。
会社には顧問税理士がいる。
俺は経理書類を見直した。
黒幕は、アリサだ!
社長のジロウと同棲しているバツイチ彼女、アリサ。
自称セラピストで同棲している自宅での会話に毎回3万円チャージしているアリサ。
そのアリサは自分でも法人を持っていた。
脱税用のトンネル会社か。。。
その法人への支払いがべらぼうに高い。
一昨日デスクの上でみつけた50万円の請求書もそうだ。
IKEAで5万円で買った家具に内装費とコンサル費を上乗せして、50万円にふくらまして、ジロウに請求していた。
とんだ恋人だな、ジロウ。
残念ながら、俺が思った通りだった。
500%、カネ目当て。
ジロウの会社からアリサの会社に支払いが行われ、買い物や旅行に消えていく。
無職のアリサはジロウに入れ知恵をして、コンサルフィーをとる。
ジロウが弱いやつらからセミナーで巻き上げた金を、アリサが巻き上げる構図だ。
顔を赤くしてデレデレしていたジロウが哀れになった。
弱さにつけこんでいる奴が、自分の弱さにつけこまれている。
顧問税理士も顧問税理士だ。
この状況にハンコを押すなんて。
納税書類のフォルダーに別の書類があった。
税理士からの、ご丁寧な経費計上の指南書だった。
自宅の光熱費80%は会社経費として計上。
飲食費はすべて会食に。
友だちからも領収書をもらえ。
服は衣装代で計上。
アリサとの旅行はセミナー代計上。
家族に専従者給与としてこづかいをやれ。
その方法が細かく書いてあった。
これじゃ悪徳税理士じゃないか。
今は税理士や弁護士が余っていて仕事がない。
モラルが低いやつらがいても不思議はない。
世の中はドンドン変わる。
ああ、早くこの会社からずらからないと、俺まで脱税幇助の汚名を着せられかねない。
そして、その機会は思ったよりも早く訪れることになった。