情報商材屋で働いた話(13) 警告
入社5日目。
俺はかなり疲れていた。
労働条件では、8時間勤務で休憩1時間だ。
昼休みは毎日、社長のランチであるたまごサンドとコーヒー牛乳を買いに行っていた。
おつかいである。
俺は社長のジロウに対して、すべてYESということを自分に課していた。
俺はものすごく我(が)の強い人間だ。
これまでの会社人生で、残業をしたことは数えるほどしかない。
毎日5時に帰っていたし、有給は完全消化。
盆や正月は2週間以上休むこともザラだった。
前後に海外出張を入れて、飛行機代は会社持ち、なんてこともやっていた。
しかし、この情報商材販売会社では、バカ社長があちこちのSNSに飛ばす意味不明の指示を24時間拾って対応しなければならない。
なぜ、一元管理しないのだろうか?
非効率きわまりない、と思ったが言ってない。
なぜか?
言ってもムダだからだ。
俺は効率主義だ。
仕事は最小限にしてあとはダラダラしたい。
働くことは美徳、という風潮の日本社会で、俺は完全に浮いた存在だった。
俺はミニマリストだ。
余分なモノは持たない。
おかげで俺は会社員でありながら30代にして数億円の資産を築くことができた。
俺は20歳の時からずっと個人で白色申告をしている。
日本のサラリーマンは会社ですべてやってもらえる。
しかし、アメリカでは申告納税は個人で行う。
ダイナーのおばちゃんも、ウェイトレスも自分で書類を書いて提出する。
カンタンなことだし、自分の財政状況が如実に分かる。
俺は会社員時代、PLをしていた。
PLとはパーマネントトラベラー=永遠の旅人のことだ。
税金は基本的に居住地に納める。
もし、居住地が定まっていなければ、払う場所がない。
日本国内にいれば、日本に納税する。
俺は仕事柄、世界各国を飛び回っていた。
俺は合法的に税金を回避していた。
ジロウの情報販売会社は脱税をしている。
ジロウの恋人のアリサの会社も脱税をしている。
税金を払っていない、ということでは俺もジロウも同じだ。
何が違うのかというと、合法か違法かということになる。
法治国家ではモラルに関係なく、違憲か合憲か、で判断される。
俺は法の穴を見つけくぐり抜けた。
ジロウとアリサは法律を破った。
一発当てた成金どもはこれだから困る。
いいか、法律は守らなくてはダメだ。
そして、税金は絶対に払わなきゃダメだ。
犯罪は割に合わない。
税金はサラ金よりこわい。
金持ちになることは難しくない。
金持ちでありつづけるのが難しいんだ。
そして、金持ちの最大の敵は税金だ。
だいたいの成金が税金で失敗する。
税務を知らずして金持ちにはなれない。
この会社は間違いなく潰れる。
さらに、俺はジロウの会社がおかしている別の違法行為を見つけた。
著作権法違反、個人情報保護法違反、特殊電子メール法違反。
著作権についてはいうまでもない。
ジロウの情報商材は師匠のパクリだ。
アレンジしてある分にはいい。
しかし、写真をそのまま転載するのはダメだ。
そして、顧客名簿の譲渡。
承諾なき個人データ漏洩は犯罪だ。
YESマンを演じていた俺だが、犯罪行為の片棒をかつぐ気はサラサラない。
俺はジロウに警告することにした。
「社長、ちょっといいでしょうか?」
つづく